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2014年7月 4日 (金)

フィロキセラ Phylloxera

 今日7月4日はアメリカ合衆国の独立記念日です。しかしながら、私はこの国があまり好きではありません(@_@;)なので、ちょっといやみたらしく北米発の一大事件についてアップしようと思います…(^_^;)


 皆さんは「アブラムシ」をご存知ですか?家庭菜園などをやっていると、作物や草花の芽に小さな虫がびっしりとひしめいている…あれです。一匹一匹のアブラムシを見ていると、小さく柔らかく弱々しい虫なんですが、その増殖能力は昆虫界の中でもトップクラス。基本的に卵を産まず、直接幼虫を産む、いわゆる胎生なので、卵の期間が省略され、あっという間に成虫になります。しかもほとんどの場合、すべてがメス。交尾をしなくても、また次の幼虫を産むという
単為生殖のため、一匹のアブラムシを理想的な環境のもとに置いておくと、一年後には地球上を数メートルの厚さでアブラムシが覆ってしまうとか…。ともかく凄まじい増殖能力です。

 さらにこのアブラムシ、かなりの偏食家が多いです。マメアブラムシは豆類にしか寄生しませんし、ミカンクロアブラムシは柑橘類だけにしか寄生しません。他の植物に無理やりくっつけても餓死してしまいます。

 で、今回お話するのは「ブドウネアブラムシ」。海外ではフィロキセラという名で呼ばれ、恐れられています。その名のとおり、ブドウだけに寄生するアブラムシで、しかも多くのアブラムシが植物の新芽に寄生するのに対し、本種はブドウの根に寄生します。このため、非常に発見しづらく、気が付いた時にはブドウの樹が衰弱し、そのうち枯れる…という事態が生じます。

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 ワインは古来からヨーロッパに根付き、愛飲されてきた飲み物です。文化的にも宗教的にも、ヨーロッパ人の生活とは切っても切れない縁があります。19世紀後半当時、ヨーロッパ各国には広大なブドウ畑がありましたが、ある時、大事件が起こりました。日本ではちょうど明治維新(1868)頃の出来事です。今まで健全だったブドウの樹がしだいに元気がなくなり、葉が枯れ、最後には枯れてしまいます。このような症状がフランスの農村の一部で起こり、わずか10年間でフランス全土に蔓延、さらには急速に全ヨーロッパに拡がりました。

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 原因はフィロキセラでした。当時、北米大陸にもブドウがあることがわかり、研究のために北米種のブドウの苗がヨーロッパに持ち込まれました。ところが苗と一緒にフィロキセラも持ち込んでしまったのです。フィロキセラはもともと北米大陸だけに分布していました。現在では各国とも植物防疫体制を構築し、外国からの病害虫の侵入を未然に防止する体制を整えていますが、当時はそのような知識は無く、侵入を許してしまったのです。北米種のブドウはこの害虫に対して耐性を持っており、多少寄生されても被害は発生しませんが、ヨーロッパ種のブドウにはそのような耐性はありません。ひとたまりもなくブドウ畑はやられてしまい、ヨーロッパのワイン産業は壊滅的な打撃を受けました。また、その被害は世界的な広がりを見せ、当時すでにカリフォルニアで栽培されていたワイン用のヨーロッパ種のブドウにまで被害が及びました。日本でも甲州ぶどうが大きな被害を受けています。日本の甲州ぶどうは中国から伝わったヨーロッパ系統の品種で、フィロキセラには弱いのです。

 この被害を防ぐ方法はなかなか見つかりませんでした。ついにはフランス政府は解決方法を見出した者には30万フラン(現在の貨幣価値で3億円相当)の報奨金を出すという、異例の措置を取りましたが、解決に至ったのは19世紀末になります。北米種のブドウはフィロキセラに強く、それほど被害を受けません。一方で果汁に独特の香り(狐臭)があるため、ワイン製造には向いていません。そこで、この北米種のブドウにヨーロッパ種のブドウを接ぎ木します。つまり、根は北米種・枝葉はヨーロッパ種というわけです。この方法によってようやくヨーロッパのブドウは息を吹き返したわけです。とはいっても、その打撃は大きく、フィロキセラが蔓延する前と後を比べると、ブドウの栽培面積はほぼ半分に減っています。

 フィロキセラの被害は様々な影響を及ぼしました。フランスでのブドウ栽培を諦めた農家が世界各地に移住し、それぞれの国でワインを作るようになりました。有名なのはスペインのリオハです。また、南半球のチリやオーストラリアにはフィロキセラの被害が及んでいなかったので、こういった国々では接ぎ木をせずにヨーロッパ種のブドウが栽培されています。

 また、この事件で漁夫の利を得たのは、イギリスのスコッチウイスキー生産者です。もともとヨーロッパでは蒸留酒といえばブランデーが主流でした。ブランデーはワインを蒸留して作りますので、ワインが無ければ作れなくなります。とはいえアルコールに強いヨーロッパ人のこと、やはり強い酒が欲しくなります。当初、スコッチウイスキーはブランデーの代わりに飲まれた単なる代用品だったんですが、ブランデーが品薄になったこの頃から注目されるようになり、その品質にも磨きがかかるようになりました。フィロキセラのおかげで、今のようにウイスキーに市民権が与えられたというわけです。

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